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古橋秀之『ブラッドジャケット』

古橋秀之先生のデビュー二作目『ブラッドジャケット』の感想。
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デビュー作『ブラックロッド』の終盤でこいつの正体は実は的に登場したアーヴィング・ナイトウォーカーさんが吸血鬼掃討部隊・ブラッドジャケットに入るまでの過去話となっています。
 いや~面白かった。最高に良かったです。
 中古で買わざるを得ないのが残念過ぎる。献金したい!
 展開は二転三転して全く飽きないし伏線の張り方も上手い。文章も、最初の方は

<ロング・ファング>の背後の屍体の壁が二つの拳に砕かれ、崩れ落ちる屍体と、血と脳漿と膿汁のシャワーが吸血鬼の姿を覆い隠す。

てな感じで、サイバーパンクチルドレン特有の詰めこみ具合が(サイバーパンクの前からこういうのはあった、なんてのは勘弁して下さい)少しくどいかな、とも思ったんですが、これが終盤にいくごとにどんどん簡潔でスピーディーになっていきます。筆が乗ってるのが感じられて楽しい。

V4の魂は凍結され、器体の制御はサブに移行。緊急退避。V4は一瞬で数メートルを跳び退り、壁を蹴って跳躍、天窓を突き破って、消えた。

なんて、格好よくて、しかも速い。ゼラズニイみたい。ゼラズニイが大好きで、他にもこういう作家いないかな~と思ってたので日本人が書いたこういう感じの小説に出会えてとても嬉しいです。
 ストーリーは、主人公の気弱な少年アーヴィングに加え、吸血鬼の祖<ロング・ファング>とそれを追うヘルシング教授、その娘のミラを軸にした多重プロットとなっています。これもねえ、実に良かった。緊密にプロットを絡めて先が気になるようにする上手さももちろんですが、アーヴィングくんのパートが良いのですよ。

 ともあれ、匂いにはなれたが、この音にはまだ慣れない。
 でも、いつかは慣れるだろう、とアーヴィーは思った。どんなことだって、我慢してるうちにどうにかなるもんさ。

てな感じで、少年のふわふわした自意識が見事に描かれていて、ぐっときちゃいました。
 この気弱な男の子が

 思わずミラの顔を見ると、ミラは再び口元に手を添えて、小さな声で、
「殺しちゃおう」と言った。
 ――あ、そうか。
 と、思うより早くEマグが跳ね上がり、医師の後頭部を標準。
 引き金を引いた。
 紅い花。
「きれいだね」と、ミラが言った。

こうですからね……。もう最高。

 唯一の欠点はヒロインのミラちゃん。こんな可愛いのにどうせ死ぬんだろうな……と思いながら読むのが辛かったです。

「……そう」
 しばらくして、アーヴィーの上に、ふわりと被さるものがあった。
 ミラの体だ。
「ねえ」
耳元で、ささやいた。
「それじゃあ、わたしがあなたのママになってあげようか」

ここ、最高じゃないですか?先見の明を感じざるを得ない。

 なんだか中身のない小説だと勘違いされそうなレビューになってしまったのでテーマについてもなにか書きたいのですが……。なんというか、自分とか自意識ってなんなのだろうよくわからないふわふわしてるから、と思いました。

 次はシリーズ完結作のレビューを……。