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ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』

近いうちに本の感想あげるって書いてからはや二週間以上経ってしまいましたが、とりあえず二回目の読書ブログを……。
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 国書刊行会から出ているウルフの短編集です。二冊出ていますが、一冊目の代表作を集めた感じのですね。
 収録作は
 「まえがき」(浅倉久志訳)のほか
 「デス博士の島その他の物語」(伊藤典夫訳)
 「アイランド博士の死」(浅倉訳)
 「死の島の博士」(浅倉訳)
 「アメリカの七夜」(浅倉訳)
 「眼閃の奇蹟」(柳下毅一郎訳)
の五作品です。ジーン・ウルフは今80歳くらい(たぶん)のファンタジーも手掛けるSF作家で、ファンタジーっぽいSF大作の「新しい太陽の書」が有名ですね。僕は一巻しか読んでいないのですが……。現行版は小畑健が表紙を描いているのですが、天野喜孝版が欲しくて今度神保町行ったら買おうと思っていて買っていないパターンですね。というか神保町もあんま安くはないしマケプレヤフオクのほうが普通に便利なのですが、表紙買いなので一応現物が見たいということで……。
 本題に入りましょうか。
 全体として、読み応えがあって面白かったです。ウルフの特徴として、世界観の作りこみや重厚かつ華麗な文章などが良くあげられます。世界観の作り込みや雰囲気づくりの上手さはたしかに抜群で、複雑な話や設定の構造を咀嚼していく楽しみが味わえるのがウルフの作品の一番面白いところだと思います。ただ、文章に関してはやや遠回りすぎて入り込みづらい(なかなか読むスピードがあがらない)きらいがあります。これを短所と評するのは少々酷な気もしますが、中村真一郎も「小説は一気に読まないと面白くない」と言っていましたし、読んでいて苦労することがありました。もう一つの欠点としてはやはり語りの技巧に気をとられ、理屈っぽくなりすぎるきらいがあり、読者の感覚に訴えかけるような描写が少し弱いかなと思いました。高すぎる要求なのはわかっていますが、「アイランド博士の死」で試みられているようなモチーフの重ねあわせは感覚描写を読者に強く印象付けないといまいちハマらない気がしますね。では個別に感想を書いていきましょう。思いっきりネタバレなのでご注意を……。





 「まえがき」(浅倉久志訳)
 これはさすがに書くこともないかなあ。面白かったですが。
 「デス博士の島その他の物語」(伊藤典夫訳)
 それなり、という感じ。代表作というほど面白くはないかと思いますね。あと、SFじゃなくない?「きみ」の二人称はお疲れ様と言う感じですが。内容としては、お母さん(未亡人なのか?)がなんかいかがわしいことをしてたりして寂しい思いをしている少年のもとに、小説の登場人物が現れて……というもの。ウルフは少年に語りかけるの大好きですねえ。僕もまあ嫌いじゃないですが。オチがそもそもアレというのもありますが、少々綺麗に描かれすぎているというか。少年の本に出てくるバケモノだとか謎の美女だとかといった魅惑的なモチーフを活かしきれてないような気がします。とても上手に書かれていますし、普通に面白いのですが。
 「アイランド博士の死」(浅倉久志訳)
 収録作では一番面白かったです。お気に入り。
 まず、ガラス球の内側に水が張り付いた人工の衛星、というのが素敵だし、それを精神病院にしてしまうというのもいい。ウルフは設定を詰め込み過ぎるクセがある気がしますが、この作品のように閉じた空間を設定するとうまく縛りが効いていい感じですね。精神状態にあわせて変化する天候をうまく精神病院の設定につなげられていない気はしますが、話の展開の上手さで十分にカバーできていると思います。そして、ウルフの大好きな金魚鉢のモチーフが登場。これは舞台設定とうまく重ねられていて良かったですね。少々シビアな終盤の展開も良かったです。
 閉じた空間を設定し思弁的に話を展開させるのはソラリス雪風を例にとるまでもなくSFの典型パターンですが、この作品はお手本のように上手に書かれていますね。浅倉訳も安定。
 「死の島の博士」(浅倉久志役)
 不治の病に侵された男が冷凍され、(ほとんど)不死が実現した未来に目覚めるのだが……というお話。サスペンスフルな語りでかなり楽しめましたが、電子書籍っぽいもののなかにディケンズの登場人物が現れる展開は教養がないのでさっぱりわからなかったし、少々投げっぱなしで終わりすぎた感があります。いやまあ、説明を省いてガンガン展開する小説は好みなのですが、さすがにわからない、という感じ。この作品にも金魚鉢が登場。ショタと金魚鉢が好きなウルフです。
 「アメリカの七夜」(浅倉久志訳)
 ドラッグと免疫疾患(うろ覚えだから違うかも)で荒廃したアメリカに降り立ったアラブの御曹司っぽい人。そこは奇形が跋扈し新旧の文化が入り交じる奇妙な地でした。おまけに幻覚も見ちゃいます。という話。
 カフカ『アメリカ』の影響が強いのかな?主人公が失踪するところも同じですし。あやしい雰囲気づくりという点でカフカの天才を真似したかったのでは、という部分が随所に見られ、いい感じです。
 荒廃したアメリカの描写は実に良かったのですが、実は幻覚だった~というパートがあまり面白くありませんでした。言葉のマジックだ!などとほめる人もいるようですが、僕は「幻覚だったんだ……へえ……」で終わってしまいますね。
 「眼閃の奇蹟」(柳下毅一郎訳)
 やや地味ですが、面白かったです。これもお気に入り。
 網膜で人間が識別される管理社会を盲目の少年が旅しています。少年には普通の人にしか見えないものが見えます。
 というのが基本の設定で、旅の連れ合いに出会ったりして話が進んでいきます。少年が女の子の足を治してしまったり、変なものがみえたりするのが実は……というのが話の核。設定については、相変わらず場面を飛ばしまくり現実と幻想を入り混ぜながらの無茶苦茶な説明をするのですが、この作品にはハマっていて良かった。設定を説明し過ぎないおかげでラストも余韻が残るものになっています。中盤の展開はやや飛ばし過ぎだけど、コンピュータがどうとかいうところをぶっ飛ばしただけなのでまあいいかな。「死の島の博士」でアセンブリ言語でいちいち電子書籍をプログラミングしている時点であまりそっちのセンスを感じなかったので……。いくら昔の作品だといいっても、S式という素晴らしい(?)フォーマットがあったわけですからねえ。いや、関係ないか?

適当ですがこんな感じで終了。全体として物語をテーマにしたメタフィクション風の作品が多かったかな。僕のいちばん好きなメタフィクション(を含む作品)はナボコフの『賜物』なのですが、これは文学に依存し他人を見下す青年の危うい、でも熱っぽい感情のうねりが最高なんですよ。そういうふうに、もっとフィクションに依存する心情を重ねられるとなお良かったかな。その辺が自明に扱われているとやっぱり少し弱いですよねえ。でも、野心的で面白い短編集でした。最近人気があるのかウルフの本たくさん翻訳されてますが、さすがに分厚いファンタジーとかは読むの大変そう……。でも新しい太陽の書ケルベロス第五の首くらいは頑張って休み中に読み切りたいなあ。大学始まったら絶対読まないので。
 次こそ早めに感想を上げられるようにしたいものです……。